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伝えるべきもの、思いと言葉について

「おいしいものブティック 平翠軒」というお店の名前を聞いたことがありますか?

岡山県の倉敷・美観地区の裏通りにあるこの店は、森田酒造という老舗の
酒蔵の一角に設けられています。

29坪の店内に所せましと並ぶのは、社長の森田昭一郎さん(森田酒造三代目)
が国内外の各地を訪ね歩いてご自身の舌を頼りに集めてきた、珍しくて美味しい
食べ物。あるいは森田さんが生産者に頼んで特別に作ってもらったという逸品
ばかり。

そして最近、食の安心・安全に対する消費者意識の高まりを受けて、百貨店の
バイヤーが平翠軒の商品に目をつけ、昨年からは渋谷西武や神戸そごうにも
「平翠軒コーナー」ができるなど、全国に広がりはじめているとのこと。

今また新しい「地方発全国ブランド」が誕生しようとしているわけですね。

森田さんが品物を選ぶ基準は「人と風土、自然が一体になった食べ物」であって
「作り手の思いがこもっていて、商品に力があること」だといいます。扱う品は
すべて生産者と直接取引し、卸値や購入量は相手任せで一切条件は付けない
とか。当然ロスも多いですが「良いものを作り続けてもらうための先行投資」と
割り切っているそうです。この懐の深さも驚きです。

目先の利益最優先で自分だけがいい思いをしようとする商売人が多い中で、
損得を抜きにして作り手を大事にする姿勢は、私たちも学ぶべきところが多いです。

何より私が平翠軒に興味を惹かれたのは、千種類以上の商品のすべてに付け
られているというPOP(店頭販促用のツール)に書いてある筆文字の紹介文。
内容は、作り手の名前や製法、食べ方、味わいなど様々。じっくり読むと作り手の
思いが自然に伝わってきます。

例えば「鴨のロース煮」に付けられたコピーは「琵琶湖のそばにある小さな炊き屋
さん・一湖望の合鴨のロース煮です。ワインをたっぷり使って炊き上げる鴨の美味
さは格別。思わず笑い出してしまうようなこの味は食べてみないとわかりません」。

「京都の黒七味」は、「一代で一人しか調合のレシピが伝えられないというこの七味
は、その馥郁たる香気とはりのある辛味が独特の世界をもっています。蕎麦や
うどんが二倍美味しくなることは請け合いです」。

「サバの醤油漬け」では、「福井県小浜市の魚屋・まるほ商店のご主人に電話を
入れるとそのまま市場に走ってくれ、新鮮なサバをすぐ特製醤油に漬けて送って
くれます」。

どれもほんの簡単な紹介ではあるけれど、読んでいるだけでその商品の生産者の
顔や背景、味がイメージされるような、気が利いたコピーばかり。

実は森田さんは元々コピーライターになりたくて広告代理店に勤務していた(でも
営業に回されて辞めてしまった)という過去があるそうで、どうりでひとつひとつの
言葉が錬れているわけです。

百貨店のバイヤーが平翠軒の品物にほれ込むのは、商品の品質や味が森田さん
によって吟味されたものであるというだけでなく、森田さん自身が商品の魅力を
言葉に表して丁寧に伝えているからでしょう。

良いものを買っていただくためには、価格を下げるのではなく、高い理由がある
ことを手を尽くして納得してもらうのが先決。
「安くて良い食べ物なんてない。良いものなら少しくらい高くてもお客様は理解して
くれる」そう自信を持って言い切れる森田さん、コミュニケーションの達人と言える
と思います。

パブリシティは、メディアを通じて企業や商品の魅力を伝えていくことですが、やはり
その大前提は、伝えるべきものがあり、伝えるべき思いがあること。そして、伝える
ための言葉をきちんと持っていることです。

インターネットやケイタイなどコミュニケーションのツールは多様になってきています
が、それらはあくまでメディアであって、伝える内容が肝心なのです。小手先のノウ
ハウだけでお客様に伝わるほど、商売は甘くないですもんね。

平翠軒は1990年の開店。ことさらPRや広告宣伝を意識したわけでもないこの
店が18年目の今になってブレイクしてきたのは、店主の森田さんによる地道な
情報発信が、マスコミという大きなアンテナにようやく引っかかったということでしょう。

ぜひ一度訪ねてみたいと思いますし、また、今後の展開に注目したいと思います。

平翠軒ホームページ↓
http://www.heisuiken.co.jp/

投稿者 prism : 2008年04月17日 14:25

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