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抜いて、抜かれて
12月20日の朝、いつものように日本経済新聞を開くと、「リクルート、スタッフサー
ビス買収へ」という記事が目に飛び込んできました。
リクルートが人材派遣業界で売上高トップのスタッフサービスを、1,700億円で買収
する方向で最終調整に入った、という記事です。
この日、この記事が掲載されていたのは日経新聞一紙だけ。翌21日にはその他
の朝日・毎日・読売・産経などが追従して同様の記事を書き、リクルートによる緊急
記者会見も行われました。
続いて12月22日、「グッドウィル事業停止へ」という大きな見出しが朝日新聞の一面
トップに大きく躍りました。グッドウィルグループが二重派遣など違法な日雇い派遣を
繰り返したので厚労省が事業停止命令を出すという記事。
22日にこの記事が載ったのは朝日だけで、23日にはその他の各紙が同じような
後追い記事を掲載しました。
(当地には夕刊がないのでわかりませんが、東京などでは当日の夕刊に載ったと
思われます)
つまり、この一週間で2件の人材派遣業界の重大ニュースが相次ぎ報道された、
ということになります。
スタッフサービスは一般の人材派遣業、グッドウィルは日雇いの労働者派遣が中
心であり、そのカテゴリーは違うのですが、人材派遣業界の注目度が高まっている
中でこうした大きなニュースは否応なく目に付きますね。
これら二つのニュースの出所は、記者クラブでの発表ではありません。日経や朝日
の記者自身が取材して書いた単独の記事、いわゆる「特ダネ」、「スクープ」です。
当日、他社の記者はデスクから呼び出されて大目玉をくらい、大あわてで取材に出
かけ、記事をまとめ、その日の夕刊や翌日の朝刊に間に合わせたことでしょう。
このような1紙独占のスクープ記事は新聞記事の中で最も価値が高いとされ、その
後の後追い報道や社会的な影響が大きければ大きいほど、記者としての内面的な
喜びは大きく、社内での評価も高まります。
特に日経新聞というのはその名のとおり経済分野で最も大きな力を持つメディア
ですので、経済分野のニュースは何が何でも自社が抜く(独占で報じる)のだ、とい
う気概を持っています。各業界の専門記者も多く、取材体制も整っています。また、
企業や経済団体が日経の影響力を利用しようとして日経だけにわざと情報を流す
(これを「リーク」といいます)ことも多く、黙っていてもスクープが取れる環境にあり
ます。逆に彼らは、経済分野の重大ニュースを他社に「抜かれる」ことや「特オチ」
(他紙が報道しているのに一社だけ掲載できないこと)は絶対許されないという
厳しい宿命を背負っているのです。
20日の紙面では日経が他紙を「抜いた」のですが、22日には朝日が「抜き返した」
ことになりました。見事なスクープ合戦でした。
もっとも、企業買収の記事は「経済部ネタ」なので日経が強く、厚生労働省による
事業停止命令は企業の不祥事となるので「社会ネタ」に強い朝日に分があった、
ということは当然のことかも知れません。
記者という人種は、農耕民族の日本にあってきわめて狩猟民族的な特徴を持って
いて、誰も獲れないような獲物をひたすら追い求める、特殊な人たちです。
彼らはもともとスクープを取るために仕事している、といってもいいくらい。
「まだ誰にも知られていない事実」や「公になっていない重大ニュース」をどこよりも
早く伝えることを無上の喜びにしています。だからこそ丹念に取材をし、ネタを集め
ることに余念がありません。その中で「これだ」という事実に狙いを定めたら、夜討
ち朝駆けの周辺取材で状況証拠を集め、裏づけを取り、念には念を入れて記事に
するわけです。
ある記者は、「スクープを追い求めているとき、自分の書いた記事が出たときの反
応を考えて身震いする」と言っていました。
そうして渾身の力をこめた特ダネ記事が紙面に出る。案の定、他紙の記者が大慌
てで取材に飛び出した。企業は緊急記者会見を行った。テレビも動き出した・・・と
いう状況になったとき、当の本人は心の中でガッツポーズをするのです。
この特有のクセが悪い方向に出ると、スクープ狙いで書いた記事が「誤報」になっ
たり、企業の経営に悪影響を及ぼす結果になって恨みを買ったりというケースも、
あります。実は誤報の多さも日経がいちばんだと思うのですが・・・。
彼らはそのたびにデスクからしかられ、苦い思いをすることになります。しかし、
そうした経験を積み重ねた日経の中堅以上の記者の取材能力は、他社より一歩
リードしているように私は感じています。
余談ですが、スクープ記事の多くは、リード(前文)の言い回しに特徴があります。
リクルートの記事では「リクルートは・・・・買収する方向で最終交渉に入った。
・・・・1700億円前後で調整中とみられ・・・・めざしている」。グッドウィルの記事では
「厚生労働省は・・・・事業停止命令を出す方針を固めた。・・・対象となる見通し。
・・・可能性がある」など、遠まわしな表現が多いのが特徴。
これが記者クラブでの発表による記事なら「○○○○と明らかにした」や「○○○○と
発表した」となり、本文にも断定的な表現が多くなります。
日経・朝日に「抜かれた」各紙は翌日「・・・買収する方向であることが、20日まで
にわかった」なんて書きをしているのですが、「日経新聞の記事によってわかった」
とは意地でも書けないですもんね。
投稿者 prism : 2008年01月10日 20:33
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